それから僕は、彼女の元で暮らすことになりました。
彼女は、大きな家に1人で住んでいました。
その家の中の1つの部屋を、僕に与えてくれました。
もちろん、いくつかの決まりはありました。
他の部屋へ出入りをしないこと。
許可なく外出をしないこと。
それらも、僕にとってはどうでもいいことでした。
ただ安心して眠れる
ベッドがある。
それだけで充分でした。

僕はただ自分の部屋で、時を過ごしました。
幸い彼女は、大きな本棚がある部屋を僕の部屋にしてくれました。
その本棚には、僕が見たこともないような本がぎっしりと詰まっていました。
知らない本を読むだけで、あっという間に時間は過ぎていきました。
元々本を読むのは好きだったので、僕は何の疑問も持たず、自由を感じていました。

彼女は日に数度、僕の部屋を訪れました。
3度の食事のほか、夜には長時間僕の部屋を訪れ、僕の話を聞いてくれました。
僕は一生懸命、その日読んだ本と、それについて感じたことを話しました。
彼女は僕の話にうなづき、僕が疑問に感じたことは、何でも教えてくれました。
僕はそれが嬉しくて、また本を読みました。
このときは、彼女とのディスカッションを糧に、生きていたように思います。
今思い返すと、彼女は僕の過去について聞くことはしませんでした。
そしてまた僕も、彼女について尋ねることもありませんでした。
何故だか分かりませんが、そうした方が良いように思えたのです。

そんなある日。
僕はある文庫本を手にしました。
何気なく読み進めたその本ですが、その展開に僕は目を見開きました。
活字の上で女は裸になり、男と交わっていました。
僕は母の声を思い出し、一瞬めまいと吐き気を感じました。
しかし、まだ見ぬ女と男の交わりに、僕は目を離すことはできませんでした。
頭はガンガンとしていましたが、文字列は僕に想像をさせ、僕は今まで感じたことのないような高揚感に包まれました。

その夜。
僕は彼女に、今日読んだ本の話をどうすればいいのか、悩みました。
「どの本を、読んだの?」
彼女に尋ねられ、僕はうつむきました。
僕はもごもごと口ごもりながら、一冊の本を差し出しました。
それは、男と女が交わる、あの本でした。
僕はなぜか、彼女に嘘をつく気にはなれませんでした。
「そうなの」
彼女はその本へ目を落とし、そして僕を見据えました。
「何を、思った?」
そう彼女に聞かれ、僕はようやく口を開きました。
「なんだか、ドキドキしました」
言いながら、僕は小説の内容を思い出し、また鼓動が早まるのを感じました。
「して、みたい?」
心臓が、とくんとはねた気がしました。
彼女は、そっと僕に近付き、僕のモノに、ズボンの上から触れました。
その時、今まで感じたことのないような切ない疼きが、腰の辺りに生まれました。